森本てい針について
広島市 光ヶ丘鍼灸院 院長 飯田 寿
1.森本てい針とは
皆さん、森本てい針(もりもとていしん)というものをご存じでしょうか。
大阪の森本繁太郎先生が考案されたもので、視覚障害者の先生方の一部が使われている、新しい針です。本日はこの新しい針を一般の鍼灸師の先生方に紹介させていただきます。
これまでにも是針には「小里式てい針」という、先端がとがっていたり、丸い突起の付いたものがありました。森本てい針はこれとは異なり、全長約55ミリ、太さは1ミリ程度で先端の20ミリがその半分の太さになっており、両端が丸く面取りされて穏やかな刺激が可能になっています。材質は銅です。弾力性はなく、鞄の中で他のものに接触したり、ちょっと強く握ったり、指で両端を挟むと曲がってしまい、ペンチで真っ直ぐにしようとしても元通りにはならず、使い物にならなくなってしまうので、保存や扱いには細心の注意が必要です。
大変単純な形をしており、針管や爪楊枝で刺激するのとどこが違うのかわからないと思います。しかし。刺激量は爪楊枝の先より少なく、針管や爪楊枝の頭よりもピンポイントに刺激を送ることが出来ます。また、実際に使用してみると押し手に気が集まってくるのを感じるだけでなく、針からの採気が指先よりも鋭敏にわかります。使い慣れてくれば自在に刺激量をコントロールでき、補寫も自由自在です。森本てい針は経絡治療を行うとき、補法をするのにもっと刺激量の少ない針が欲しいという要望に叶うものです。
森本繁太郎先生の考えは、「刺針をして患者を壊すくらいなら、壊さない針だけを用いれば良い」と森本是針の発想を語っておられるそうです。
2.森本てい針の利点
経絡治療を施術する場合には刺さないからといって皮膚を消毒をしなかったり、衣類の上から刺してしまうこともあります。また、高価な銀針や金針を使うためディスポではありません。いくら刺さっていない、滅菌したといっても患者の不安は拭えません。それに比べて森本てい針は絶対に刺さらないのですから、皮膚の消毒もいりませんし、初めての患者でも恐怖心を与えることはありません。また、施術をしていて怖いのはオーバードーゼで患者の具合を治療前より悪くしてしまうことです。肉付きの良い若者ならば少々針を刺しても大丈夫でしょうが、痩せこけた老人には刺すといっても筋肉が薄く、刺すところがありませんし、トリガーポイントテクニックといっても、どこもかしこも痛いと言うので、すべてにきつい針をしてしまうとかえって体をこわしかねません。しかし、森本てい針の刺激は大変弱いのでその心配も少ないのです。
3.森本てい針の利用法
森本てい針は刺激量が自由自在なので経絡治療の本治法、標治法の双方に使えます。
また、マッサージ、指圧等をされる方でも事前に森本是針で筋肉の緊張を緩めておけば、時間も加える力も大幅に少なくてすみ、施術者の疲労や患者の揉み返しの量も大変少なくなります。時間が短縮されれば患者の回転も良くなり、治療院の経営において大変有利になります。
4.森本てい針の使い方
簡単に使い方を紹介させていただきます。
経絡治療に用いる場合は、主に補法で使います。目的のツボのあたりを優しく左示指の指腹で探り、手の止まるところ(気の感じるところ)に優しく押し手を作り、右手で森本是針を70度から45度の角度で当て、採気して気が至ったと感じたら針を右上方に素早く引き、針孔を素早く優しく閉じて終わりです。
マッサージ、指圧等をされる方は背部の凹凸に対して盛り上がっているところには優しい押し手で軽く森本てい針を当て、陥凹しているところには優しい押し手でやや重めに森本てい針を当て、これを背中全体に行ってからマッサージを始めます。これは鍼灸治療でも同様に利用でき、刺針や灸、ローラーの前に使用することで全体の刺激量を少なくすることができ、オーバードーゼを防ぎます。
森本てい針はただの道具なわけですから、どのような使い方をしても治療家個人個人の自由なので、自分にあった利用法を工夫してみてください。