「顔面神経麻痺について 〜 末梢顔面神経麻痺の治療 ベル麻痺、ハント症候群、術後麻痺」
広島市 光ケ丘鍼灸院院長 飯田 寿
顔面神経麻痺には脳の病気による中枢性顔面神経麻痺と末梢性顔面神経麻痺があります。
臨床でよくみられるのは末梢性顔面神経麻痺の仲間のベル麻痺で次いでやはり末梢性顔面神経麻痺のハント
症候群です。顔面神経麻痺は昔から針灸の適応症として様々な治療法がありますが、この度は当院で行って
いる治療法の紹介をさせて頂きます。顔面神経麻痺の程度はHouse−Brackmann法と当院独自の指標で評価し
ています。
顔面神経麻痺は中医学では痺証で風邪が関係することが多いとされていますが、当院ではそのような治療法は
行っていません。当院は経絡治療と、標治法として星状神経節ブロック、顔面と頸肩の刺針を行っています。
当院では顔面神経麻痺の原因をお血ととらえ、血の循環をよくすることによって治療します。
本治法として津液を動かし、続いて血を動かすために少陰腎経と少陽三焦経、太陽小腸経へ営気を補う手
技を行います。血の状態に応じて腎経の太谿、復留、陰谷を使いわけます。三焦経はほとんど陽池を使いま
す。小腸経は陽谷、養老、支正の中でもっとも脈の反応の良いものを使いますが支正を取ることがほとんどで
す。営気を補い、津液の流れを十分に確保し、血を流して肝に戻すと考えて治療しています。他の症状が重
く、脈状が悪い日は顔面神経麻痺の治療はおいておいて先に他の症状の治療をすることもあります。
標治法は頭臨泣、陽白、攅竹、四白、地倉、翳風、完骨、天柱、風池、聴宮、下関、頬車などを麻痺の位
置にあわせて適宜、置針します。同時にスーパーライザーや半導体レーザーで星状神経節ブロックをします。ま
た、症状にあわせて顔面をホットパックで暖めたり、筋肉のもみほぐしをしたりします。顔面のトレーニングとして治
療中に口輪筋や表情筋を鍛えたり、瞼を動かさすにロを動かす方法を覚えて頂きます。自宅療養として共同運
動を起こさない程度の百面相や歌を歌ったり、顔面をもみほぐしたりして頂きます。こつは顔に力を入れすぎない
ことです。額に搬を寄せるときには口や瞼がつられて動かないように、口を動かすときには瞼を動かさないように気
をつけながら。少しの力でトレーニングをします。
症例1:57歳男性
、初診:2006年5月23日
主訴:ベル麻痺による右側の顔面神経麻痺
現病歴:冷たい風を長時間顔面に受けたため、ニケ月前に麻痺が発症し、直後に耳l科にてベル麻痺と診
断、治療を受けるが十分に回復せず。
現症:明らかな麻痺で左右差も著明。額のしわ寄せ(右不能)、力を入れれば閉眼可、頬をふくらませる(空気
が漏れる)、鼻唇溝わすかにあり。口角の運動はほとんどみられず。ろれつが回らない。House−Brackmann法Gra
deW
治療経過:初回治療直後から顔面に動きが出る。口角が動いて笑顔が出せる。右目が軽い力で完全に閉じ
れるようになり、鼻唇溝ができる。5/23〜6/29の合計10回の治療で自然な表情がでるようになり、完治。House−
Brackmann法GradeI
症例2:22歳女性
主訴:ハント症候群による左側の顔面神経麻痺
現病歴:2005年12月19日に発症、個人病院から市民病院へ紹介。市民病院で一週間ステロイドの点滴
を受け、2006年1月3日よりビタミン剤。2月1日まで様子をみるといわれた。医師には治りにくいので諦めるよう
いわれ、来院。
現症:左側の口角下垂、鼻唇溝消失。額のしわ寄せ不能、力をいれても閉眼不可、頬をふくらませると空気が
漏れる。口角の運動はみられす。House−Brackmann法GradeV。
治療経過:初回治療後より目が閉じれるようになる。1/16〜4/27の41回の治療で完治。共同運動もなく、自然
な表情がでるようになるが、現在も表情がわすかに不自然(左右非対称)に感じるため治療継続中。House−Bra
ckmann法GradeI
症例3:69歳男性 、
初診:2005年5月30日
主訴:ハント症候群による左側の顔面神経麻痺
現病歴:2005年4月14日、顔面がおかしく感じる。耳が痛む。4月15日脳神経外科、 4月18日に耳鼻
科、4月末に日赤を受診。ステロイドの注射を受ける。医師に初期治療が遅れたので治りが遅いのではないかと
いわれ、当院へ来院。
現症:左側の口角下垂、鼻唇溝消失。額のしわ寄せ(左不能)、目を閉じる動作(左不能)、頬をふくらませる
(空気が漏れる)、鼻唇溝です。ろれつが回らない。顔貌は左側に搬が無くのっべり。口角の運動はほとんどみら
れす。House−Brackmann法GradeV。
治療経過:初回治療直後から顔面に動きが出る。左目に力を入れれば閉じれる。5/30〜8/13までに21回の治
療で不自然ながら一通りの表情が出せるようになるが、額に搬を寄せられす、頬をふくらませる動作では空気漏
れを起こす。一時治療を中断。House−Brackmann法GradeV
2006年1月10日五十肩で再来院。再発、進行がないことを確認。
2006年4月14日、笑顔が自然でないことの治療を開始。顔面への治療と口輪筋のトレーニングを開始。4/14
〜9/4までの治療で少し頬をふくらませる動件が可能になる。House−Brackmann法GradeU
症例4:39歳女性
初診:2005年6月9日
主訴:神経線維腫症の手術後の左側の顔面神経麻痺
現病歴:2005年5月16日、左側頭部の神経線維腫症の手術を受け、左側の顔面が完全に麻痺する。医
師に顔面神経麻痺治療を訴えるが、無駄といわれ、しばらく様子をみるように指導される。藁をもつかむ思いで
当院へ来院。
現症:顔貌は左側に皺が無くのっぺり。左側顔面の筋肉が完全に動かない。額のしわ寄せ(左不能)、目を閉じ
る動作(まぶたが全く動かないので乾燥を防ぐために眼帯で覆っている)、頬をふくらませる(不能、全く動かない)、鼻
唇溝なし。ひどくろれつが回らない。House−Brackmann法GradeY。
治療経過:初回治療直後は変化なし。6/9〜9/28までの50回の治療で瞼がある程度しめられるようになり、眼帯
が不要になる。10/22〜12/16までの柑回の治療でl唇溝がみられるようになる。表情は動かないが顔面の筋肉
がわすかに動くようになる。12/19〜2006/9/8までの91回の治療で表情は非対称で不自然だが顔の筋肉が動くよ
うになり、ろれつが回るようになったが目と口の共同運動がみられるため、トレーニングを継続中。額のしわ寄せ(不能)
目を閉じる動作(可)頬をふくらませる(空気が漏れる)House−Brackmann法GradeV
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